Cardboard Computers
Bibliography / 書誌情報
Design at Work: Cooperative Design of Computer Systems. 169-195. Ed. Joan Greenbaum and Morten Kyng. Hillsdale, N.J.: Lawrence Erlbaum Associates, 1991.
Pelle Ehn and Morten Kyng,Cardboard Computers,The New Media Reader, The MIT Press, 2003, pp.649–662.
Futher Reading
Bjerknes, Gro, Pelle Ehn, and Morten Kyng eds. Computers and Democracy-A Scandinavian Challenge. Aldershot, England: Avebury, 1987.
Computer Professionals for Social Responsibility (CPSR) http://www.cpsr.org
Ehn, Pelle. Work-Oriented Design of Computer Artifacts. Falköping, Sweden: Arbetslivscentrum and Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates, 1989.
Floyd, Christiane, Wolf-Michael Mehl, Fanny-Michaela Reisin, Gerhard Schmidt, and Gregor Wolf. "Out of Scandinavia: Alternative Approaches to Software Design and System Development." Human-Computer Interaction 4(4): 253-350, 1989.
Paley, W. Bradford. "Handheld Interactions: Tailoring Interfaces for Single-Purpose Devices." SIGGRAPH 99 Sketches and Applications, New York: ACM Press, 1999.
Ulmer, Gregory. "Grammatology Hypermedia." Postmodern Culture 1(2). January, 1991.
関連する章
8 From Augmenting Human Intellect: A Conceptual Framework
→Vannevar BushとMemexが両テキストにおいて、人間の思考(連想)を補助するシステムの原点として位置づけられてる。
13The Medium is the Message
→Marshall McLuhan が提唱した「メディアの本質は内容ではなく形態(メッセージ)にある」という視点は、Participatory Design において、テクノロジーの「透明性」による知覚の麻痺を警戒し、モックアップを通じて道具の構造を批判的に捉え直そうとした実践と関連している。
21From Computer Lib / Dream Machines
→コンピュータを「管理・教育のための機械」ではなく、ユーザーが自発的に探索し自分自身の道を見つけるための「ハイパーメディア」という自由なメディアとして再定義する思想は、本章でParticipatory Design が目指すものと関連している。
23From Soft Architecture Machines
→Nicholas Negroponte が提唱した、コンピュータがユーザーの意図や文脈を学習し自己設計を支援する構想は、Pelle Ehn らの Participatory Design と関連している。
26 Personal Dynamic Media
→本章でも登場しているAlan Kay と Adele Goldberg が提唱した、Smalltalk を通じて誰もが創造的に扱えるメタメディアとしての "ダイナブック" の構想について書かれている。
37Using Computers: A Direction for Design (from Understanding Computers and Cognition)
→Terry Winograd と Fernando Flores が説く、道具を意識せず目的に没入できる方法と問題発生時に構造を再認識させる「ブレイクダウン」の設計は、本章の Participatory Design と関連している。
38The Six Elements and Causal Relations Among Them (from Computers as Theater)
Star Raiders: Dramatic Interaction in a Small World
→Brenda Laurel が演劇の「有機的全体」を用いて説く、感覚や行動の体系的なつながりによる体験の設計は、本章のParticipatory Design において、モックアップでの遊びや「言語ゲーム」を通じて未来の働き方を身体的に共有しようとした実践と関連している。
Author’s information / 著者紹介
Morten Kyngモーテン・キン(1950–)
Pelle Ehnペッレ・エーン(1948–)
Summary / 要約
イントロダクション
初期のパーソナル・コンピューティングにおいて、Alan Kay や Adele Goldberg は、Vannevar Bush の Memex 構想を源流とし、Smalltalk を「誰もが自分の道具を作るためのメディア」として設計した。しかし、商業化の過程でシステムは複雑化し、ユーザーは作り手から「与えられた機能の消費者」へと転落した。
テッド・ネルソン や ブレンダ・ローレル らは、デザインを開発の最終工程ではなく、最初からユーザーを巻き込むプロセスにすべきだと主張した。その具体的実践が、Pelle Ehn らによる Utopia Project(理想的な社会システムやコミュニティ開発に基づくプロジェクト)である。これは、自動化によって職人技が奪われることに抗い、現場の知恵を技術設計に統合する試みであった。
Pelle Ehn は、道具が身体の一部のように馴染む「透明性」を重視しつつも、Gregory Ulmer の視点を引き、テクノロジーが背景に消えすぎる(シームレス化する)ことでユーザーが批判的思考を失う危険性を指摘した。
これらの思想は Participatory Design として体系化された。これはユーザーを「自分の仕事の専門家」として尊重し、「反省的実践者」として設計プロセスに招き入れる手法である。単なる操作性の向上ではなく、働く人の権限や創造性を守るための社会的な運動でもある。
本文
本来、Smalltalk は Alan Kay や Adele Goldberg、さらに Vannevar Bush の Memex 構想にまで遡る「ユーザー自身が自分の道具を作るためのメディア」という理想を持っていた 。しかし、商業化や企業の利益目標に左右される中で、デザインは開発の最後に付け足される装飾へと変質し、その理想は失われていった 。この状況に対し、Ted Nelson や Brenda Laurel、Terry Winograd、Fernando Flores らは、デザインを最初からユーザーを巻き込むプロセスにすべきだと主張した 。その思想を具体化したのが、1980年代に Pelle Ehn と Morten Kyng が主導した Utopia Projectである 。スカンジナビアの新聞業界で、アメリカ製の組版システム導入により職人の技能が失われる危機に面した際、彼らは労働組合と大学研究者が協働し、職人のスキルを基盤とした新しいツールを共同設計する道を選んだ 。このアプローチは Participatory Design(参加型デザイン)として広まり、ユーザーを「自分の仕事の専門家」として尊重する国際的な潮流となった 。
Pelle Ehnは、道具を単なる中立的な物体ではなく、人間の社会的文脈の中で構築されるものと捉えていた 。彼にとって良いツールとは、ユーザーがその存在を意識せず目的に没入できる「透明な」存在(Martin Heidegger のいう ready-to-hand)であったが、同時に Gregory Ulmer の視点を引き、テクノロジーが背景に消えすぎることで批判的距離が失われる危険性も警告した 。そこで活用されたのが、段ボールや紙で作られた「段ボール・コンピュータ」という安価で手軽なモックアップである 。1982年当時、まだ存在しなかったレーザープリンターを段ボール箱で模し、それを囲んで議論することで、ジャーナリストや職人は未来の作業環境を「身体的理解」を通じて体験した 。Ludwig Wittgenstein の「言語ゲーム」の哲学を応用し、モックアップを単なる模型ではなく、参加者が未来の働き方を共に演じ、意味を共有する遊びの場に変えたのである 。
その後、HyperCard や SuperCard を用いたデジタルな第3世代モックアップへと進化したが、完成度が高まりすぎるとユーザーが「完成品」と誤解し、自由な発想や批判が妨げられるという課題も浮き彫りになった 。あえて不完全な制約を設けることでユーザーの想像力を促し、手を動かしながら考える「やりながらのデザイン(design by doing)」を維持することが、民主的な技術開発には不可欠である 。最終的に、Participatory Design とは、デザイナーがプレイメイカーとなり、多様な参加者がスキルを共有しながら仕事を再構築する、サッカーの試合のような「民主的な創造」の実践であることを示している 。
Editor: 山本晴菜・柳原萌生